大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡家庭裁判所小倉支部 昭和51年(少)2010号 決定

少年 E・T(昭三五・二・一一生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収してあるカメラ一台、広角レンズ一個、黒皮レンズ入れ一個(昭和五一年押第一六九号の符合一、二、三)は、これを被害者○田○豪に還付する。

理由

一  非行事実

少年は

(1)  A、Bと共謀のうえ、昭和五一年七月二六日午後一〇時頃北九州市門司区○○○町×丁目×の×○○水産有限会社前路上において同所に駐車中の普通乗用車内より○田○豪所有のカメラ一台、広角レンズ一個、黒皮レンズ入れ一個(時価合計約八万円相当)を窃取し

(2)  A、B、C、と共謀のうえ、同月二七日午前二時頃同区○○×の×の路上において同所に駐車中の普通乗用車内より○石○信所有の現金七万円、銀行預金通帳一冊を窃取し

(3)  A、C、D、と共謀のうえ、同年八月七日午前三時頃同区○○町××の××○井○男方前路上において同人所有の普通乗用車一台(時価約二五万円相当)を窃取し

たものである。

二  法令の適用

いずれも刑法第二三五条、第六〇条

三  保護処分に付する理由

(1)  本件記録および当裁判所の調査、審判の結果、小倉少年鑑別所の鑑別結果通知書によれば、少年は中学二年頃から無断外泊や窃盗恐喝等を犯すようになり、次第にその回数を重ね、中学卒業後も窃盗等をくり返して昭和五〇年九月二三日当裁判所において福岡保護観察所の保護観察に付された。しかし同年一〇月以降も窃盗がやまなかつたが同年一二月五日から塗装店に住込んで働きだして一応行状が落着いたので昭和五一年六月八日これらの事件については保護処分に付さない旨の決定を受けたものの同年七月三日頃には前記の塗装店をやめてしまい本件非行の共犯等の不良集団に入いり、徒食の生活を続けて本件各窃盗を敢行したものである。

少年の資質等についてみると、智能は普通域(IQ一〇〇、新制田中B)にあるが、少年の生育上の負因から強い愛情飢餓感を持ち更に正常な人間関係のあり方を身につけていないので健全な職場等の社会生活に適応できず、その結果職場等に対する不適応感、疎外感を形成して不良集団への接近、所属を求める気持が強い。また少年には他人に同情し思いやる好ましい点があるが、あまりにもその見返りを期待する気持が強いため、結局裏切られたとして意識することが多くかえつて人間関係を形成するうえで障害になつている。

少年の家庭は少年が三歳位の時父母が離婚し、母は少年のもとを去り、父は酒乱で少年が一一歳の時まで祖母に育てられたが祖母が死亡し少年の妹は教護院である○○学園に入園し、父は昭和五一年六月アルコール中毒の治療のため入院し、少年の家庭は全く崩壊してしまつた。従つて少年は前記の如く不良集団に入いり自己の生活の安定をはかり、これが定着している。

以上を綜合すると、少年を在宅指導により更生をはかることはすでにその限界を超えていると思われ、この際施設に収容して規律ある生活を通じて健全な勤労精神や前記の少年の性格上の長所を伸ばす為に奉仕の精神を涵養して社会生活に適応できるように教育する必要がある。よつて少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項を適用して少年を中等少年院に送致する。

(2)  押収してある主文掲記のカメラ一台、広角レンズ一個、黒皮レンズ入れ一個は前記非行事実(1)の犯罪の贓物で被害者○田○豪に還付すべき理由が明らかなものであるから少年法第一五条第二項、刑事訴訟法第三四七条第一項によりこれを同被害者に還付する。

(3)  福岡保護観察所長は、当裁判所に対し昭和五一年七月二八日「少年は昭和五〇年九月二三日保護観察に付されたが、同年一〇月始めから徒遊状態になり悪友のもとに寄宿し、同月一六日から同年一一月一三日までの間六回の窃盗を、同年一〇月一七日には恐喝をした。同年一二月五日から塗装業者に塗装工見習として住込んで真面目に働いていたが、昭和五一年七月三日夜無断退職し、以後非行歴を有する一〇数名の者と徒遊しており、このまま放置すれば将来罪を犯す虞れがあり、この事実は少年法第三条第一項第三号に該当する。」旨の犯罪者予防更生法第四二条第一項による通告をし、当裁判所はこれを昭和五一年少第一八四五号虞犯保護事件として受理した。しかして通告の虞犯事由は前記認定にもみられる如く概ねこれを認めることができるが、本件では通告の虞犯が現実化して本件犯罪を犯したことが明らかであるから、この虞犯は本件審判の際の情状として考慮すれば足りるので、これについては少年に対して処分しない。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 伊藤敦夫)

通告書(昭五一少一八四五号)

保護観察の経過及び成績の推移

一 昭和五〇年九月二三日保護観察決定。同日父同伴当庁北九州支部に出頭したので保護観察について詳しく教示したうえ保護観察期間中遵守すべき事項を誓約させ保護観察を開始した。(担当者 ○田○幾保護司)

二 その後、父のもとに居住して同年同月二五日ごろから北九州市○○○区○○○左官業○村○夫方に人夫として約一週間通勤で稼働したが、同年一〇月始めから徒遊状態にあつた。

三 同年一〇月一五日家出し、同年一二月四日まで同市○○区○町×丁目○中○秋(二〇歳)方に寄宿して徒遊し不良交友を続け、この間の同年一〇月一六日から一一月一三日までの間六回にわたり窃盗事件を、同年一〇月一七日恐喝事件夫々敢行した。(上述の非行に対して昭和五一年六月八日福岡家庭裁判所小倉支部において不処分決定)

四 同年一二月五日同市○○○区○○町×丁×-××塗装業○村○介方に塗装工見習として住込み就職した。(昭和五一年一月二七日付担当者を○木○雄保護司に変更)

五 その後稼働状況も真面目で、雇主の協力も得られて特に問題なく経過していたが、昭和五一年七月五日、担当者からの事故報告(電話)により本人が同月三日夜無断退職、転居していることが判明した。即日○○区保護区○田○幾保護司に父のもとについて所在調査方依頼した。

六 同月一五日前記○田○幾保護司から報告(電話)を受け、本人が○○区内において一〇数名の少年たちと行動している模様であることが判明したので、調査のため同月一六日付、同月二四日指定で同保護司を通じて呼出状を送付した。

七 同月二四日本人が出頭、質問調査。

〔要旨〕

(1) 昭和五一年七月三日病院入院中である父の住居(借家)に帰り、現在まで単身で生活していた。

(2) その間全く就労せず、徒遊不良交友していた。

(3) 七月二一日夜、非行歴を有する○次○男他四名を、また同月二三日夜、同様非行歴を有する○坂○幸他一一名の男女を宿泊させて、ビール三本を飲酒する等不良交遊を続けた。

八 そこで父名儀の借家には帰れない状態にあることから更生保護会○○察に保護委託する方針を伝え、入寮するよう指導したが本人はこれを拒否し、福岡県○○郡○○町○田○地××-×居住の(兄)○坂○己の許へ行き、その保護を受けたいと主張したため同兄と連絡(電話)をとり、同人の許へ帰住するよう指示した。

九 同月二六日兄に対し照会(電話)したところ、本人は兄のもとへ赴いていないもので、七月二四日以降所在不明状態になつていることが判明したもので現在所在発見に努力中のものである。

以上の如く、保護観察の成績は極めて不良である。

通告の理由

保護観察の経過及び質問調書に明らかな如く、

昭和五一年七月三日以降、非行歴を有する○次○男、○坂○幸等一〇数名のものと交際している事実は少年法第三条第三項八に該当するものである。

加えて前同日以降父名儀の借家への入居、生活は、家主には無断でなしているものであり、且つ同日以降全く就労せず徒遊しているものである。

また、七月二四日更生保護会○○寮への保護委訴の措置を拒否し、そのまま所在不明になつているもので、父病気入院中であり、他に本人の更生のための資源が得られない状態にあるものである。

以上、既に保護観察による指導監督、補導援護の限界を越えているものと判断せざるを得ないもので、このまま放置すれば、将来罪を犯す虞れは極めて大であり、現段階において本人を少年院に送致し、矯正教育を施すとともに、併せ環境の調整をはかるのが適当と思料するものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例